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新居浜簡易裁判所 昭和45年(ハ)2号 判決

原告 国 外一名

訴訟代理人 片山邦宏 外一名

原告 荒木節雄

主文

一、別紙第一目録記載の土地(別紙図面参照)が原告国の所有であることを確認する。

二、被告は、原告国に対し、別紙第一目録記載の土地(別紙図面参照)を、同地上にある別紙第二目録記載の工作物を収去して明渡せ。

三、被告は別紙第一目録記載の土地にある同第二目録記載の工作物を収去し、右第一目録記載の土地に対する原告新居浜市金子土地改良区の占有を妨害してはならない。

四、訴訟費用は、被告の負担とする。

五、この判決の第三項は、原告新居浜市金子土地改良区において金五万円の保証をたてたときは仮りに執行することができる。

事実

一、原告国の指定代理人は、主文第一、二項および第四項同旨の判決、原告新居浜市金子土地改良区の訴訟代理人は主文第三項および第四項同旨の判決ならびに工作物収去につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

原告国は、

別紙第一目録記載の土地は明治初年国有地と民有地の区分の際国有地であることが明確にされ、爾来事実上農道として公共の用に供してきたものである。

二、被告は同地に別紙第二目録記載の工作物を築造して原告の所有権の行使を妨げている。

よつて、第一目録記載の土地が原告の所有であることの確認と、同地に被告が築造した別紙第二目録記載の工作物の収去および同地の明渡を求む、と述べた。

原告新居浜市金子土地改良区は、

一、原告は土地改良法にもとづく土地改良区として、その事業遂行のため、国所有の別紙第一目録記載の土地を潅漑用の国有政枝第一支線水路の補強のためと農耕用通路として国の委嘱により管理占有している。

二、被告は右通路に、別紙第二目録記載の工作物を築造して原告の占有を妨害している。

よつて、右土地に対する占有妨害排除のため同地に被告が築造した別紙第二目録記載の工作物の収去を求むと述べた。

被告訴訟代理人は、各原告の請求はいづれもこれを棄却する、との判決を求め、その答弁として、原告新居浜市金子改良区が法定の土地改良区であること、第一目録記載の土地が右土地改良地区内に存在すること、被告が別紙第一目録記載の土地に同第二目録記載の工作物を築造したことはいづれもこれを認むるもその余の事実はこれを否認する。かりに原告主張の水路が国有であるとしても、これに付属する堤塘または通路のあることを否認する。

原告主張の土地は、被告が訴外住友金属鉱山株式会社から賃借している新居浜市政枝甲八三番地同八四番地の一部分であると述べた。

〈証拠省略〉

理由

一、原告両名と被告との関係について

被告が別紙第一目録記載の土地(以下単に本件土地と略称する)に、同第二目録記載の工作物(以下単に本件工作物と略称する)を築造したことは当事者間に争いがない。

二、原告国の請求について

(一)  本件土地が原告国の所有であることに争いがあるので考える。

水路について

〈証拠省略〉によれば、新居浜市政枝町一丁目被告居住地甲八三番地甲八四番地の東側に南方より北方に流れる巾約〇・三〇米の水路(西側および底の三面コンクリート)があつて、〈証拠省略〉によれば、同水路が政枝第一支線水路であり、本件土地は右水路の西側に接していることが認められる。(別紙図面参照)

〈証拠省略〉によれば、昭和三四年中新居浜市が右水路を改修し、その際水路敷の内で水路をできるだけ東に寄せ、既存の西側の堤塘(または農道)を広くして通路としたことが認められる、右に反する〈証拠省略〉他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

〈証拠省略〉によれば、右水路は同人の幼少の頃から付近の田圃の潅漑用水路であり、水路の西側には堤塘のような通路があつて、同人の父の代から同通路を牛をひいて通行していたことが認められる。

尚〈証拠省略〉によれば、被告住宅の生垣が近年本件土地上にまで繁茂していたこと、そうして〈証拠省略〉を綜合すると、右生垣の株は右水路西側外壁から約七五糎西方にあること、被告の先代が存命中、右横山の申入れにより本件土地上に伸びた生垣の枝を何回か伐つたことがあることが認められる。

そこでその堤塘(通路)の巾員であるが〈証拠省略〉によれば水路が改修の結果東に寄らない前の時代においても牛と人の通行が可能であつたことから〇・三六米はあつたことが認められる。

以上の認定に反する〈証拠省略〉は採用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

無番地とその意義

〈証拠省略〉を綜合すると、本件土地はその東側に沿う前掲水路(政枝第一支線水路)とともに無番地であることが認められる。

明治六年七月太政官布告二七二号地租政正条例、同年三月太政官布告一一四号地所名称区別、明治七年一一月七日同布告一二〇号改正地所名称区別によれば、時の明治政府は財政的必要から、私有財産を確定して地租賦課を行ない、その所有者には地券を交付し、そうでないものは官有地に編入したこと、かくして地租賦課のために民有地が確定するとともに、その反射的効果として国有地が明かとなつたことが認められる。

右の地券を発行された土地(即ち民有地)には地番が付されてあり、昭和二二年法律三〇号土地台帳法によれば民有地にはすべて地番が付され(四条、四四条)てあるところから無番地は国の所有であることを推認できる。

尚〈証拠省略〉によれば、右水路の西側に沿い巾四、五十糎の堤塘があつてこの部分は被告の賃借する甲八三番地甲八四番地ではないことが認められる。

右に反する〈証拠省略〉は採用できず、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

以上のことから本件土地は民有地に属さないことが認められ、そして国の所有であることが推認できる。

(二)  故に被告は本件土地につき何等の権限を有しないから被告が同地に築造した第二目録記載の工作物は収去して同地を原告国に明渡すべき義務がある。

三、原告新居浜市金子土地改良区の請求について、

原告が法定の土地改良区であること、および本件土地が右原告土地改良地区内に存在することは当事者間に争いがない。

(一)  被告は、原告の占有の事実を争うのでこの点を考える。

本件土地が国の所有であることは前段認定のとおりである。

〈証拠省略〉の結果によれば、本件土地は、原告が原告の土地改良区の前掲潅漑用水路(政枝第一支線水路)の堤塘として水路とともに土地改良法による事業遂行のためその発足当時から引続き現在に至るまで国の委嘱により管理占有していることが認められる。

〈証拠省略〉により本件土地が被告の賃借地甲八三番地甲八四番地に属さないことは前段認定のとおりである。

以上の認定に反する〈証拠省略〉は採用できず他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

(二)  被告が本件土地に別紙第二目録記載の工作物を築造したことは権限なく行つたものであるから、原告の占有を妨害していることに外ならない。したがつて、被告において右工作物を除去すべき義務がある。

四、よつて原告等の請求はいづれも理由があるから全部これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、主文掲記の仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東定太郎)

別紙第一目録

新居浜市政枝町一丁目所在同地を南から北に向け流れる尻無川と同所を東方より西方に通ずる市道政枝滝の宮線と交差する同川の西側堤防より同市道沿いに西方約三八・二八米(別紙見取図(イ)点)を基点とし、これより北方に向け一・七九米の地点(同図(ロ)点)より北方に向け通ずる、新居浜市金子土地改良区政枝第一支線水路の西側に沿い北方へ長さ三〇・四五米の地点(同図(ハ)点)同点より西方に〇・三六米の地点(同図(ニ)点)同点より南方に三〇・四五米の地点(同図(ホ)点)同点より東方に〇・三六米の地点(同図(ロ)点)この(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ロ)点を直線をもつて結ぶ範囲の土地。

別紙第二目録

別紙第一目録記載の(ロ)点の北方に、同目録水路西側コンクリート壁に沿い設けられた約〇・三二米角高さ一・〇三米のブロツク製門柱および、これより北方水路西側壁沿いに長さ約三〇・一三米巾〇・一一米地上の高さ約〇・一二米、地下の深さ約〇・二八米のコンクリート基礎(同コンクリートに鉄筋支柱あり)。

図〈省略〉

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